生き方

役者を始めた人が知るべき5つのこと

 

僕は舞台の音楽を作っているのですが、毎年沢山の俳優さんとお知り合いになります。

そこで色々な演出家、スタッフ、プロデューサーさん等らと話していく中で気づいたことがあります。

役者さんになりたての方は役者がなにをすべきか知らない事が多い

ということです。

 

もちろん演劇学校などもありますが、現場目線でこんな俳優だといいな、ということをまとめてみましたので、ぜひご一読ください。きっと貴方のこれからの俳優人生に役立てて頂けると思います。

 

・俳優になるとは

はじめに俳優業は、ライセンスがありません。一応その様な免状を出している所もあったりはしますが、そこまで普及しておらず、名乗ったその日から誰もが俳優です。

学校の演劇で芝居をやっても、大学のサークルで演劇をやっても、俳優と名乗りさえすれば俳優になれてしまいます。

ピンキリの人材の世界で、キリからのスタートであることは間違いありません。スカウトキャラバンや大手のオーディションに受かれば、スタートラインは変わりますが。。

 

・お仕事にしてく事=お金を得る事、リピートされる人材になる

これができれば、舞台の本数は増えます。集客に関しては、また別の機会に書かせていただきますが、まずは沢山の舞台に出る、お誘いされる、つまりリピートされる人材を目指す事が大事だと思っております。

ですから明確な基準はありませんが、これができていると現場は嬉しい→リピートしたい人材につながっていく、そういう事を現場目線で書いていきます!

僕個人の感想ですが、これができている俳優さんは、沢山の現場に呼ばれたりしてお仕事につなげている印象です。

 

 

役者になるための5つのこと

 

1.全ての始まりは礼儀作法から

 

まずは挨拶、とにもかくにも挨拶です。

顔合わせという稽古はじめに一同が集まって、自己紹介をしたりする機会があります。

そこの挨拶次第で、この現場にどんな心持ちで望んでいるのかが判断されます。

 

・顔合わせ

大きな声ではっきりと所属、自分の名前、今回の作品への意気込み、このくらいで内容は問題ありません。

・稽古に入ったら

最初と最後の挨拶をしっかりとしましょう。おはようございます。お先に失礼します。これだけで全然大丈夫。そこにいる人全員に聞こえるように挨拶を。

・気をつける事

稽古期間には、別のシーンの芝居のため、時間区切りでお休みになったりする事も。

その際気をつけるべきは、シーン稽古中に稽古場に入った際は挨拶を待つことです。

シーンによってはその場全体が緊張感に包まれている場合もあります。そんな中 稽古で作り上げている空気をぶち壊してはいけませんよね。

 

良くない例

・帽子を取らない

結構増えてきてますし、気にしない方も多いとは思いますが、やはり現場によって気にする方がいらっしゃいます。そもそも帽子とは外でかぶる為にあるものです。

室内では外すのがベターでしょうし、最悪挨拶の際には脱帽を心がけましょう。

・声の大きさ

現場の規模によって、全員が聞き取れる声量は違いますよね。広い現場、多い人数では大きな声、聞きやすい発声、逆に少ない人数、小さな規模では聞き取れる声量で良いです。

 

 

2.宿題はやっていく

稽古が始まる前に台本や資料を渡してくれる現場があります。また最近はダンスナンバーなんかも多いので、事前に振り付けを渡されたりも。

事前に渡せるという事は、その分全てのプロジェクトが前倒しで動いてくれているわけです。

言うなれば、稽古の前に渡される事は宿題です。台詞を読んでいく、ダンスの振りを覚えていく、稽古場に入る前にやっていきましょう。

 

 

3.稽古場は化学反応の実験場

 

稽古場は演出をつけて貰う場所、と思う方もいますが、演出家も様々です。

料理で言うなら料理長ですが、この材料と材料でどんな味になるのか未知数な所もあるのです。それだけ一期一会の世界です。

材料の切り方、なんなら味付けまでお願いする料理長もいますし、素のままの材料で

お願いします、という人も。

様々な料理長や素材との出会いを、万全な体制で楽しむ事。その準備をしましょう。

・色恋は気を付けろ

僕らが作り出す作品は、現実ではありません。舞台の上でリアルを追求した、リアリティです。なので、人も死んではいけないし、殺しもしません。

ですが、恋愛に関しては、どうもそうはいかない事が多いようです。

少ない稽古期間でも1ヶ月、長いと2ヶ月近く、同じ作品に向き合い、切磋琢磨してきた人達です。親交が深まるのも当然ですし、そこからさらに深い仲になってしまう方々も。

そうなってしまった場合と、そういう人が現場にいたらどうする?!

・なってしまった場合

稽古場はあくまで仕事場、プライベートを持ち込んでしまうとカオスな状況になり兼ねません。もちこまないように、仕事に集中しやすい距離感を心掛けましょう。

・なりそうな場合

結論を出すのは本番が終わった後でも遅くはありません。期間中は毎日の様に顔を合わせてはいても、仕事を終えればそれはありません。フラットな環境でプライベートを育む、現場に持ち込まずに済みますし、お互いに別の仕事が走り出した後の環境で、当人同士の関係を深めていきましょう。

 

 

4. 飲み会は参加すべき?

時代の流れもあってか、強制する所は以前よりは減っていますが、それでも

ノミニケーションと呼ばれる風習があるのも確かなことです。

自身の体調や金銭面等が優先であることは言わずもがなですが、仕事をし易くする上で  効果的な面もあると思います。

また、稽古場での時間は限られています。その日1日演出家からコメントが出ない場合もありますよね。そんな時はそういった稽古後の時間を上手く活用するのもありです。

ただ、飲みの場を仕事だと思う人、そうでない人が混在しているのも事実です。

節度をもったノミニケーションを。

 

 

5.経費はかかるもの

たとえばパスタ屋さんを始めるとして、数百円のパスタしか食べた事がない人は、

1万円のパスタを作れるでしょうか?

本物を作るには、本物を知る。

本物が何かは人それぞれですが、それを見極めるためにも、今消費者に消費されている

自分が一流だと思うものを体験しましょう。

その経験にはお金がかかるものです。破産してしまっては意味がありませんが、タイミングを見て自らその経験をしておくことは大切です。

 

・スキルアップは継続が鍵

俳優業、という大きな枠で見ても、必要とされるスキルは多くなっています。

特に歌唱、ダンスは舞台に必要とされる傾向が大きくなっています。言わずもがなは

芝居のスキル、台本から意図を読み解く力、決め打ちでないやりとりをする技術、毎公演リフレッシュし、鮮度を保つ方法など。芝居に括ったとしても沢山の技術が必要です。

 

ある著名な俳優さんが、飲み会の席に参加した時の逸話。

その人は「この時間がいいチームを作るのに大切な時間なのは理解している。ただ、私はその時間を自分を磨くことに費やして今がある。」

そう言って10万円を置いてその方は帰ったそうです。

自分の限られた時間の中で、その先も使い続けることのできる技術は資産になります。

まずはひとつ、興味を持ったことから定期的にスキルを磨いていきましょう。

 

最後に

俳優業というのは多くの人がスタートさせ、そして去っていく現場でもあります。

どの様な理由で辞めるのかも人それぞれです。

個人的な想いでもありますが、この先の人生がより豊かになる、そんな経験や蓄積をしていけば、

きっと違う道に進んだとしても役立てていけるのかなと。

 

皆さんの役者人生に幸あれ!

 

チェンジオブワールド

無事終了致しました。ご来場、応援頂きました皆様、本当にありがとうございます。

作品を作っていく際には、お客様にどんなものを持ち帰って頂けるかを考えます。

それは作品としての面白さやドラマ性もありますが、それを経た社会的意義もあります。

 

僕は小学生の頃にイジメを受けた経験があります。

 

ですが、その後反旗を翻し、イジメっ子に突っかかっていく、イジメっ子のイジメっ子の様な経験もしました。

決して胸を張れる経験ではありませんが、作品作りに使えるものはなんでも使っていこうというスタンスなので、僕なりにこの作品の音楽について取り組みました。両者の立場をなんとなく知る者として。

 

それは、役者に寄り添うという事。

 

音楽は芝居を華やかに盛り上げたり、時に扇情的にとシーンにとても影響をします。

だからこそ、今回はあえてその影響を少なくしたかった。そうする事で役者の芝居が浮き彫りになる。

 

勿論、ドラマの展開や大事なモーメントには、そういう音楽が求められたりもしますが、チョンさんのオーダーはごく控えめなものだった気がします。

音響さんも、出来る限り小さく入れる音楽は、その様に取り組んでくださり、そのドラマを見守る音楽になっていた様に思えます。

 

 

役者の消費するエネルギーは尋常じゃないものだったと思います。だからこそお客様に残るものになる可能性があったと。

改めて出演者に労いを送りたいと思います。この作品に取り組んだ経験が、俳優人生の糧になる事を願っております。

 

そしてご覧になった皆さま。

 

この作品が現代社会にやるべき作品になっている、そんな世の中の事を少しでも考えるきっかけになれば、幸いです。

狂宴哀歌を終えて。

剣舞プロジェクトも5回目。

狂宴哀歌が無事終了いたしました。

お陰様で沢山のお客様にご来場いただき、千秋楽は5回のカーテンコール、スタンディングオベーションを頂きました。お客様が受け取ったものを、僕らも教えていただいた様な気分です。

パンフレットの前書きでは書き尽くせなかった言葉を綴ります。座組みの皆には、打ち上げで「感慨深い」と言った中身を書き綴ります。

 

 

今まで剣舞プロジェクトの持ち味でもあった、生演奏のミュージカル、というブランドの看板を今回下げて取り組むところから始まりました。

というのも劇場にオーケストラピットが無い、舞台上のエリアを削ると美術や殺陣に大きく制限が出てしまうからでした。これは苦渋の決断でした。

それと同時に剣舞さんでの新しいチャレンジでもありました。

 

生演奏は迫力もありますし、歌い出しのタイミング、キーの上下など、色々な事にフレキシブルに対応できます。ですが、それらが封じられた状態になるわけです。

生演奏がなくても、感動する作品になるかのチャレンジ。と個人的には思っておりました。

 

主演の徳山さんにも「生演奏にしよう」と勧めていただいたのですが、今回は役者のエネルギーに賭けてみたかったのもあります。

そして、生演奏でないとなると、”打ち込み”という音楽をPC上で完成させる作業での完成になります。幸運なことにいつも生演奏でやらせて頂いていたので、細やかな所まで作らずともミュージシャンとリハーサルで音楽を作れました。これは良くも悪くもでした。だから、僕自身の挑戦として、端から端まで音楽に追求をしてみたいと思いました。

 

 

剣舞の台本の作り方は特殊で、稽古が進む中、役者の最も映えるであろう台本を書き上げるところにあります。

当て書き、と俗に呼ばれたりしますが、それが稽古を始まっても進行していくのです。歌が得意な俳優には歌のソロを、芝居が得意な俳優には芝居を。これは当然ですが、時間も労力もかかります。

音楽の作成も完成してシーンから、となります。ただ、音楽で強い音楽が生まれることで台本に影響を与えることもある。そんな手間をかけながら作りました。

 

 

正直、楽な戦いではありませんでした。稽古の佳境になる4月最終週の仕事の時間は10時28時(朝の4時)これが一週間続きました。

そんな中、新撰組シリーズで必ず歌って頂いているナンバー「侍」のアレンジ作業に入った頃でした。今なら昔の侍を超えられる。構成を大幅に変更しての作成でしたので、ほぼ新曲のボリューム感。

アレンジも中盤に差し掛かった、曲でいう後半の最初の方に当たる所、そのアレンジをしている最中でした。悩まず音を選ぶことができる、すらすらと音が出来る。不思議でしたが、作りかけを確認の為再生して聞いてみました。するとどうでしょう。僕の目の前には、いつも演奏をしてくれていたミュージシャンの姿が見えたのです。

 

彼らは、僕が侍の作品を作るにあたって全身全霊で取り組むことに付いてきてくれました。一音に込める魂、その時の表情、泣きながら音楽を奏でる様。

 

気がつくと涙が流れていました。ああ、このすんなりと出てきた音は、彼らが僕に刻み込んでくれた音なんだなと。僕は一人になって気付きました。一人で作っているつもりの音楽は、僕一人のものではなかった。みんなの音楽になっていたんだと。

 

僕のやり方に合わないミュージシャンも多くいました。命がけで演奏しろだなんて、そんな事求められる事じゃないし、割に合わない。やり方が厳しすぎる。もう印南さんの所ではできない。

そうして離れる人々がいる度に、傷つき、このやり方でいいのだろうか、と悩みました。

それでも、改善できる事は改善して、これからもそのつもりですが、作品に対して向き合う、姿勢は変えてはいけない。

きっと、僕が、割に合わないからといって手を抜いた作品を作ったら、適当に演奏してと言ったら。

付いてきてくれたミュージシャンは落胆するでしょう。

そういうことをし始めたところから、作曲家としての道も下降していくと思います。

今回はミュージシャンの有り難さを痛感しました。それとともに、剣舞の可能性もです。

生演奏に頼らずとも、5回のカーテンコールをお客さまから引き出す。そんなエネルギーを持った作品を作ることが出来る。それを証明してくれました。

 

そして、初めて剣舞プロジェクトの作品を客席から観ました。色々な想いがこみ上げました。

お客さまにエネルギーを持ってぶつかりに行く様には、これからの若者の可能性を強く感じました。

役者の皆、話す時間は足りなかったけど、ここで言わせてください。感謝しています。僕の曲は僕にとって子供のようなものです。順位なんてつけられない。そんな子供たちが生きている瞬間は、舞台上で歌われている時だけです。

僕の子供たちを輝かせてくれてありがとう。

 

最後に

挑戦はいつだってできます。ですが、若いうちにほとばしる情熱を、エネルギーを爆発させられるのは、そのエネルギーがある、若さの特権です。エネルギーは質が変わっていき、技術を磨くことで表現も変わっていくでしょう。荒さもあるし、時にはぶつかることもあるでしょう。

ですが、その時にしかできない全力とは、後になってみれば無知だから、技術が未熟だからできた表現だと気付きます。最初から技術だけを追い求めても、情熱が枯れれば辞めてしまいます。

心のない表現は、自分も、人も痩せ細らせます。

 

命を燃やしてください。その先どんな道を選択しようとも、その経験はあなたを勇気付け、助けてくれ、時には仲間ができます。そしてその先のやりきった気持ちを謳歌してください。

 

そして、少し休んだら、また走り出して。磨きましょう。

その先の道で会えるのを楽しみにしています。

 

印南 俊太朗